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性犯罪の不起訴はなぜ起きる?被害者を追い込む、知られざる法制度の欠陥

性犯罪の不起訴、なぜ起きる?
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ニュースで見かける性犯罪の不起訴。
理由が明らかにされないことが多いですが、なぜ凶悪犯罪なのに不起訴などということが起こってしまうのか、疑問に思ったり、憤りを感じる人もいるかもしれません。
今回の記事ではサバイバーが、性犯罪の不起訴の裏で起こっていること、被害者への多大な負担について書いていきます。

 

筆者は実際に被害者として一連の法的手続きを経験しましたが、法律の専門家ではございませんので、今回の記事の内容が不起訴理由のすべてと確証するものではありませんのでご注意ください。
あくまで自身の経験として、被害者に立ちはだかってきた数々のハードルについて書きます。

 

また逮捕以前に、性暴力被害では被害届を警察に受け取ってもらえないケースが多数あります。
それを前提として、この記事では、起訴不起訴の判断段階で起こることについて記載します。
同じような被害や法的手続きを経験した方は、もしかしたらこの記事を読むことで、フラッシュバックや嫌な感情を思い出してしまったりすることもあると思うので、閲覧に無理をしないでください。

 

 

起訴になってもしんどい現実

 

前置きとして、筆者のケースは性暴力被害の中でも、”起訴されやすい条件がたまたま揃っていた”ということを念頭に置きながら読んでいただければと思います。
つまり、今日本でなされる性犯罪への対応の中では、これでもかなり良い対応をされたということです。
実際不起訴にされるケースでは、これから書くそれぞれの段階で、さらに過酷なことが起きているということです。

 

 

被害者に立ちはだかる壁1.加害者逮捕まで。精神的負担のかかる警察聴取

 

警察での聴取

 

セカンドレイプにも繋がる質問

 

性犯罪の聴取は、ただでさえ生々しく尊厳を削るような経験について、自身の言葉で述べなければなりません。
それだけでも相当な負担です。

筆者のケースでは、本格的な聴取の際は性犯罪を過去にも扱ってきた女性の刑事が担当をしてくれましたが、最初に警察に被害を訴える時に窓口となるのは、性犯罪の対応を理解している人とは限りません。
警察側も「現場に伝わる」初動の対応マニュアルや、性犯罪の実状についての正しい認識を浸透させる必要があります。

多くの被害者は、この聴取の段階で既に深く傷つけられます。

 

本格的な聴取の中では、

・被害に遭った際に着ていた服装

・今までの交際経験(性的経験)

という、セカンドレイプに繋がる質問を受けました。

 

担当した性犯罪を扱った経験のある刑事は、服装や交際経験等の嫌な質問をする際、
「服装も交際経験も、本来事件に関係ないし、決して○○さんが悪いわけではないのだけど、この質問を聞かなければいけないことになっていて、本当にごめんなさい。」と前置きをしていました。

 

刑事個人としては、おかしな質問だと思っているけれど、警察の仕組み上の問題があるのだと思いました。

 

性犯罪でなかったら、このような質問が被害者になされるでしょうか。

警察の聴取方法の背景に「レイプ神話」的発想があるからこそ、トップダウンでこういった質問が、調査できくべきこととして、認識されてしまっています。

改めて書いておくと、担当した刑事の方がある程度理解を持っていて、できるだけ気を付けながら聴取をしてくれたので、警察のできる限りの対応としては、これはかなり良い対応であるというのが現状です。
警察による酷い対応事例は多く耳にしますし、担当者によって対応に差がでないようにしなければならないと思います。

 

 

処罰感情があるか、情状を調書として聞かれる

 

加害者が逮捕されると、被害者にどの程度処罰感情があるのかを判断するため、「加害者についてどう思うか?」ということを聞かれます。

不思議ですが、いざ加害者が逮捕されるとなると、とてもこわかったです。
被害者は被害者のはずなのに、防衛機制等から、本当にここまでしてよかったのだろうかという気分になったりします。
これは自身の被害を押し込めて過小評価する心の働きからきています。

 

“自分も悪かったかもしれない””大事になってしまった”という認知の変化はPTSDの症状の一つでもあります。
それをそのまま処罰感情のなさとしてとらえられたり、自分の被害を過小評価して許してしまったりします。

 

基本的に被害者はあまりに優しいです。セカンドレイプをするような人たちが無知だと思います。
この段階では、加害者に「怒り」というものが完全に感じられていませんでした。

 

加害者のことなど考えたくない、むしろ考えるだけでもこわい。
それほどまでの恐怖と自身の悲しみ、衝撃の感情を、まだ整理することができていない段階です。

 

まだそのような状態の段階で、被害者は警察官、検察官に

「犯人についてどう思うか?」「処罰感情はあるか?」という質問をされるのです。

上手くこたえられるはずがありません。

 

この複雑な被害者感情を「処罰感情がない」「示談でも良いと思っている」等と勝手に判断されて、その方向に手続きが進んでいくのはおかしいです。

 

 

被害者支援制度についての説明がされる

 

刑事事件での被疑者逮捕後、今後どのような経過を辿るかを説明されます。
もし起訴をされて裁判をすることになったら、証人として呼ばれるということや、裁判まですべて終わるのには数年かかること、この先のことをいろいろ考えさせられます。

 

仕事のことだったり、裁判で相手方の弁護士に酷いことを言われて責められるというようなことを考えると、”示談をした方が負担がかからない”というような状態です。
また実際、すべての被害者の方が警察でこういった説明をちゃんとしてもらえているのかどうかも分かりません。

 

被害者支援制度については、こちらの冊子を案内されました。以下のリンクから詳しい内容を閲覧できます。

犯罪被害者の方々へ

法務省:犯罪被害者の方々へ

 

 

 

被害者にたちはだかる壁2.検察での聴取、裁判に耐えうる証拠

 

検察での聴取

 

犯人が逮捕されるとすぐに、検察へ聴取に呼ばれました。検察官からの聴取は警察での聴取以上に緊張します。
空気が警察署よりもさらに重苦しいというのもあるかもしれません。幸い女性の検事でした。

 

検察官は起訴不起訴を判断するうえで、証言や証拠が裁判に耐えうるかという観点で見るようです。また、被害者の処罰感情を重視します。
ここでも裁判になったら、相手方の弁護士から酷いセカンドレイプが起きるだろうことを説明されます。

 

聴取は証拠についての質問がかなり多かったです。警察で作った調書をもとに、詳しく聞かれる感じです。
私のケースの起訴には以下の事項が影響したと思われます。

 

・犯人のDNAが検出されていた、証拠物品があったこと

・スマホに時刻付きで犯行経緯や犯人の特徴を残したメモがあったこと(証言にも客観的証拠が残る)

・すぐに周囲の人間に相談したこと(被害認識をしていた証明)

・すぐにワンストップセンターに行き、病院に行き、警察に行ったこと(同意していないこと、処罰感情があったことが明確に示せる)

 

暴行脅迫要件については、私のケースでは時刻、状況、場所から、検事が抗拒を不能にする状況であると判断したようです。
しかしこれも、検察官がまだ性犯罪に遭った被害者の心的状況についての知識と理解がある方だったからです。

これだけ証拠も状況も揃っているケースでさえ、「できるだけ起訴できるように尽くしますが、お約束はできない」といった言い方をされました。

 

結果的に自身のケースでは起訴になりましたが、被害者が多くの証拠を揃えるのは難しいです。
この段階で裁判にたえうる証拠でないと判断されると不起訴にされてしまいます。

被害直後の行動を記録しておくことや、加害者に関わる証拠をとっておくこと、できるならばDNAをとることは、この段階で重要なものになります。

 

そもそも性暴力は被害認識に時間がかかったり、いざその時にこうした行動がとれるようなものではありません。

筆者のケースは”たまたま被害認識がしやすかった状況”で、たまたま早い段階で支援に繋がることができたために、裁判にたえうる証拠を集められたというだけにすぎません。
だからこそ、
被害直後の被害者の行動について責めるようなことは絶対にやめてください。重大なセカンドレイプになります。

 

それでも、早く被害認識をして支援に繋がる行動を起こすことは、その後の被害回復にもポジティブな要因になるというのは事実です。
「緊急時できることの一つ」として、以下の情報は多くの人に届いてほしいと思います。

【最重要知識】もしも性暴力被害に遭ったら。直後にする対応・支援情報まとめ

被害者にたちはだかる壁3 起訴状への氏名記載

現状、犯人をつよく処罰したいにも関わらず、泣く泣く起訴を望めない被害者がいます。
その大きな理由の一つが「起訴状への氏名記載」です。

 

犯人が起訴をされると起訴状が発行されます。
起訴状には被疑者の情報とともに、被害者の特定情報も記載しなければなりません。

 

被告人が面識のない人物であった場合は、被害者は被告人に自身の氏名などの個人情報が知られてしまうことを恐れ、それを理由に、どんなに凶悪事件でも泣く泣く起訴を諦めるという結果が起きています。

 

これはあまりに理不尽です。
報復と個人情報を知られることを恐れて泣き寝入りせざるをえないという現状を許している現行制度は、被害者保護の視点が欠けています。
この件については、現在行われている性犯罪に関する刑事法検討会でも、改善すべき制度の一つとして議論されています。

被害者に立ちはだかる壁4.示談しなければ損害賠償が”早く、確実に”なされない

 

加害者は起訴をされると高い確率で有罪になってしまうので、起訴前までに必死になって示談を迫ってくる場合があります。

示談交渉の際、被害者側に弁護士がいないと一方的に条件を押し付けられたり、加害者側弁護士からの連絡が大きな精神的苦痛になるため、被害者側も弁護士を付けることをおすすめします。

弁護士は刑事事件の場合、警察が紹介してくれます。
警察が紹介してくれない場合は、ワンストップセンターに紹介を頼むこともできます。

 

筆者の場合、加害者が冤罪を主張し、起訴前に示談を推し進めてきませんでした。(全く反省をせず逃げ切るつもりだったとも言えます。犯行の際に証拠隠滅を徹底的にしていたので、私が証言以外の証拠を残せていないと踏んでいたと思われます)
もしも弁護人もおらず、感情も湧いてきていないこの段階で、自身のみで示談交渉を迫られていたら、のまれてしまったかもしれません。

 

起訴前の短い期間での示談は、被害者がまだ衝撃を受けているタイミングに乗じた一方的に押し付けるような示談だと感じます。
被害の影響の深刻さが露わになってくるのはどんなに早くても数か月後です。(PTSDの診断がつくのは1か月後ですし、もしも性感染症をうつされていたり、妊娠をしていたり等、さらに深刻な被害が判明し、治療費も大きくかかってくるのは、少し時間が経ってからなのです)

 

起訴前の段階でたった数十万~数百万円を払っただけで、被害弁償をした、被害者も許してくれているなどという扱いをされても、納得などできるはずがありません。
被害者は許してなどいないし、感情が麻痺しているところに丸め込まれたり、支援制度が充分でなくて起訴後の対応をするのが相当な負担なためなのです。

 

 

性暴力被害によって負った損害はどうなるのか

 

被害によって負うことになった治療費も、賠償も、本来できたはずの生活への補償も、当然為されるべきはずです。
しかし、示談でないと加害者側には損害賠償を支払うメリットがほとんどありません。

 

刑事裁判で損害賠償命令制度を利用して支払い命令がなされても、その命令に強制力はなく、加害者がきちんと賠償金の支払いをするとは限りません。
賠償金額も、示談で受け取る場合よりも非常に少ない額になります。(3~4分の1以下くらいです)

 

大きな損害を負っていたり、その後の生活での困窮が厳しい場合は、しっかりと示談金を支払ってもらう選択をすることも、全然おかしいことではありません。
勘違いしないでほしいのは、被害者は「本来なされるべきはずの最低限の補償を受けただけ」ということです。

無知から示談金を”高額”などという人間も中にはいます。
“高額”とされる示談金を受け取っても、何一つ得などしません。

”お金で決して解決できるはずがない問題を、最低限のお金である程度解決させてもらえる”加害者に優しい制度です。
示談になったからといって、被害者が弱いとか、得をしているなどということはありえません。

 

 

被害者に立ちはだかる壁5.被害者の周囲の状況ー拘束時間・仕事ー

 

私はここまで書いた内容のことを、完全に会社を休職していたためにできました。
警察での聴取が本格化してから、犯人が逮捕、起訴されるまでの期間が約1か月半です。
聴取等で丸一日拘束された日数は、約10日間です。

 

先日、被害者遺族の方が、犯罪被害者休暇制度の導入を企業に義務付けることを求めて、声を挙げてくださっていました。

犯罪被害者の休暇 義務化を要望:NHK NEWS WEB

 

逮捕までの捜査協力をし、検察に行き、弁護士を付け、裁判に証人として出席する、被害者参加制度を利用して裁判を見届ける。ここまでのことをするために、数年単位で時間がかかります。
数年に渡って、不規則に休みを取らなければなりません。

また、それぞれの段階をむかえるたびに、精神的苦痛が強まります。
法的手続きが実際に行われる日以外にも、体調面で休みが必要になります。

 

このような不規則な予定や長く続く精神的苦痛を考えると、仕事を長期間休職したり、退職せざるを得なくなる被害者もいます。
犯罪被害がその後の生活へも大きな影響を与えるのは必須です。被害者は経済的にも困窮します。
それに対応ができる制度が不十分な状態では、被害者が闘い続けるのは厳しいです。

 

 

被害者に負担をかけ続け、示談へ追い込む制度

 

これらの生活への影響を考えて、

 ・裁判を終えるまで経済的に生活をもたせるのが難しい

 ・精神的苦痛にとても耐えることができない

 ・経済的に困窮、損失が大きいため、早期に確実に賠償がされないと困る

という状況に被害者がおかれていると、示談を選択せざるをえなくなります。

 

起訴前に示談が成立すると、不起訴になる確率が非常に高いです。
起訴後の示談成立でも、裁判での判決に執行猶予がつくなど、軽いものになります。

 

犯した罪の重さ、犯行の残忍さは同じであるにも関わらず、対応する警察官、検察官の認識の差、被害者の置かれている環境の違いによって、罪が裁かれたり裁かれなかったりしている状況は問題です。

 

中には不起訴のニュースに対して、「加害者はやっぱりそこまで悪いことをしていなかったじゃないか」などといった酷いセカンドレイプにあたる認識をする人たちもいます。
不起訴になっている加害者は、”罪が軽かったから” “心から反省をしているから” 不起訴になるわけでは決してありません。
むしろ被害者に強烈な恐怖と損害を与え、法に訴える力までも奪った加害者が、”被害者保護に重大な欠陥のある制度”に助けられて不起訴になっているにすぎません。

 

現状の制度では、犯罪被害者への負担があまりに大きすぎます。被害者保護の視点が抜けていると言わざるを得ません。
このような性犯罪の不起訴を出し続ける原因となっている制度を変えるために、今現在法務省刑法改正検討会が行われています。

 

検討会の中では、この記事であげた被害者負担に関わる点も話し合われています。

 ・暴行脅迫要件の撤廃

 ・公訴時効の見直し

 ・起訴状の被害者氏名記載の見直し

 ・司法面接(聴取等)の負担の見直し

 

しかし今、現時点で刑法改正の議論の雲行きが怪しくなってきています。
暴行脅迫要件の撤廃はやはり難しいという意見もあり、このままでは被害者負担は変わらないままという事態になるかもしれません。

2020年~2021年は、2017年に約110年ぶりに改正された性犯罪刑法の3年後見直しの年で、今こそが被害者の声を、性犯罪の実状を知ってもらい、法に反映させるチャンスです。
恐ろしいことに次の刑法改正の本格的検討(被害者負担が改善されるかもしれないチャンス)は、いつになるかも分かりません。

 

今検討会に、多くの人の声を届ける必要があります。
性犯罪の不当な不起訴がなくなるように、現在刑法改正市民プロジェクトさんが、「不同意性交等罪をつくってください!」というオンライン署名を行っています。

 

不同意性交等罪を作ってください 署名

 

50000人は署名人数が必要です。現在の署名人数は約44000人で、目標とする人数に達していません。
まだ署名をしていないという方は、ぜひ力をお貸しください。


以下のリンクより署名ページへ繋がります。

【緊急署名】不同意性交等罪を作ってください 署名はこちらから!

 

署名に合わせて、Twitterでのオンラインデモも行われます。

 

 

#同意のない性交を性犯罪に

で、検討会へ声を届けましょう。

性犯罪の不当な不起訴を出し続けないために、署名&ハッシュタグを使ったデモへのご協力、どうかお願いいたします。

 

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知識はやさしさ THYME.

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この記事を書いた人

性暴力被害に遭ってしまったとき、そしてその後、被害者が利用できる支援や被害回復について、サバイバーが発信しています。