THYMEをご覧いただきありがとうございます。
THYMEは性暴力被害からの回復に寄り添う情報サイトです。
サバイバーが性暴力被害に関する法的手続きや、回復に向けた情報、支援制度の情報を発信しています。
13人に1人。日本で性暴力被害に遭ったことのある人の割合です。(※1)AB型の人の割合と同じくらい身近なこの数字に、実感が湧くでしょうか。「そんなはずがない」「性暴力は稀にみる、遠いところで起こる出来事だ」と思う人もいるかもしれません。
しかし、性暴力の被害に遭っても、7割近くの人が「然るべき機関に訴え出ることができなかった」「誰にも相談できなかった」という実態があります。(※2)
私たちに今見えている性暴力に関する情報は、被害の認知件数です。被害を届け出て、被害届を受理されるまでのハードルを越えて初めて件数に含まれたこの数字は、実際に起こっている被害の数%に過ぎません。性暴力に関して、社会で認知されている情報と現実には、これほどまでに乖離があるのです。
性暴力被害者へ向けられる偏見、性教育の不足による情報の壁により、様々な被害が”なかったこと”にされている。情報があれば、社会が正しく認知していれば、変えられる現状がそのままに、被害者だけが苦しみを抱え続けている。
被害者が一人で多くの情報を集め、被害とその後を生きることには、とてつもない苦難があります。その過程には、知識と繋がりが必要です。
THYMEは、然るべき機関でのサポートに繋がる最初の一歩を後押しするためのメディアを目指します。
自分を責め、相談をためらう人が、
誰にも相談できないと、絶望する人が、
人生の選択肢を狭められ続ける人が、
少しでも減るように。誰もが支援に繋がることができるように。
そして、THYMEの情報を見てくれた人が、自身や、近くにいる誰かに寄り添うことができるように。
「知識はやさしさ」
自分は性暴力の当事者ではない、”助ける側”だと感じている方へ
THYMEでは、「知識はやさしさ」というコンセプトのもと、性暴力や性差別に関する相談をされたり、そのような出来事を見聞きしたとき、“正しくリファーできる人”を増やしたいと考えています。
専門家ではない1人の力で支えようとしても、共倒れしてしまう危険があるからです。
また、相談される人、被害者の周囲の人にも指針や心の整理が必要だと思います。セカンドレイプは必ずしも悪意からだけでなく、”心に余裕のない人”がするものでもあります。
社会を変えていくために、一人ひとりに求められている力は、「支援」をするスキルではなく、「正しく頼り、支え合う力」だと考えています。
支援は自分の無力さや加害性にも正面から向き合わねばならないしんどい活動です。見返りを求める「支援」はかえって有害にもなります。自身の暴力性や居心地の悪さを認めなければならない難しい行為なので、「相手のためでなく自分のためにできる」専門家でないと危険であるとも思います。こうした専門職や支援職への正当な評価も、この社会に必要です。
難しいことをしようとしたり、負担をあなただけが背負おうとしたりしなくてよいので、「助けようとする気持ち」よりも「被害者を傷つけないために、自分の気持ちに余裕を持つ」ことを一人ひとりができると、自分が無自覚な加害者になってしまうことも防げるのではないか、少しでも良い方向に向かうのではないかと考えています。
THYMEでは、被害に遭われた方だけでなく、誰でも日常生活のなかで活かすことのできる「セルフメンタルケア」についても発信します。
THYMEを作った背景
THYME運営者の卜田が性暴力の被害に遭ったとき、周囲の理解があったこと、サポートに早く繋がれたことが被害回復に大きくプラスに働きました。
しかし、被害に遭ってからSNSを見ているなかで、自身のように法的手続きで加害者を裁くことさえ、とても難しい現状があることを改めて実感しました。
同じような被害、あるいはもっと深刻な被害が、”なかったこと”にされている。
同じ罪を犯しているのに、正当に裁かれる加害者もいれば、「加害をしたとも思っていない」そのままになっている加害者もいる。
被害者にとってはもちろん、加害者にとっても法の下の平等がないのではないかと思いました。
何より、加害者が裁かれるかどうか、被害を認めてもらえるかどうかが、ケースを担当した個人にかかってしまうことが問題です。被害者にとってはまさに、”警察ガチャ” “検察ガチャ” “支援者ガチャ” のような状態です。似たケースなのに、たまたま担当した人やその環境内で認識されている考えによって、その後が決められてしまいます。それがやりきれなくて、悔しくて、たまりません。
「感情的に厳罰化を」と主張しているのではありません。法的に正しく裁かれていないケースが多すぎる、それこそ感情的な判断で刑を免れることのできる加害者が多数存在している事実は、”理性的に平等に判断すべき”と言っている人たちが示す理想とかけはなれています。「加害者が感情的に裁かれることが防げていても、加害者が”お気持ち”で許されていませんか」と、そう問いかけたくなります。
被害と認められていない性暴力の存在を認めてほしい。見えなくされている、見ようともしない性差別の存在を認めてほしい。それだけの主張に、「不都合」がある人が多すぎるのです。
社会に広まった、性暴力の加害者や被害者にかかる誤った認識が変わることを願って、誰もがこれまでの研究で証明されてきた事実に基づく知識を持てることを願って、THYMEを企画しました。
また、今まで被害者が持ってきた情報がバラバラになっていることにも課題を感じていました。THYMEを、当事者の経験や知識が集まる場とすることで、一人で闘わなくてはならない人を無くしたいと、そう思いました。
性暴力を取り巻く現状を変えるために、「正しく受け止めることのできる人を増やしたい」その思いで、THYMEの発信を続けていきます。
THYMEのミッション・ビジョン
情報の力で性差別と闘う
THYMEのミッションである「情報の力で性差別と闘う」は、正しい情報や知識を持っていることが、性暴力に限らず性差別にも打ち勝つ力になると考えて掲げたミッションです。
性暴力は単独の問題ではなく、その背景にさまざまな性差別(性の固定概念)が複合している問題であると考えています。被害者となりやすい属性を、一人の人間として見ていない認知の歪みだけでなく、正しいかたちでストレスに対応することができない加害者の問題。男性の弱さを認めず、「ストレスに耐えられる、健常者で異性愛者の”正しい男性”しか認めない男性中心主義社会」の問題。男性の弱さを認めないゆえに起こる男性の性被害への否定・軽視。同時に、男性中心主義から排除されるマイノリティの性被害への偏見や軽視。レイプ神話をはじめとする性への誤った認識。
簡単に挙げるだけでも、これだけのものが入り組んでいます。
性暴力は単純に性欲から起こるものでは決してありません。支配欲と結びついている心理的な問題です。(性欲が抑えられなかったというのも、根源的には心理の問題です)
性暴力被害によって未来の選択肢を奪われない社会へ
THYMEのビジョン(THYMEが目指す社会)は、「性暴力被害によって未来の選択肢を奪われない社会」です。
性暴力の加害者にも被害者にも、傍観者にもさせない・ならないことは、とても大切なことです。
それでも、もしも被害に遭ってしまったとき、そのことで”もうだめ”と、被害者の未来を否定してしまう社会のままにしたくないと思います。
性暴力は、個人の尊厳を深く深く侵害し傷つける行為です。被害者の身体にも精神にも、未来にも重大な影響をもたらします。
でもそのうえで私自身は、「被害者は決して弱い存在ではない」「一人ひとりが尊い人格と回復の力を持っている」と考えます。
それは、被害者はつよいから大丈夫と放り出すような考え方ではなく、一人の人間としての力を肯定し、信じ、支えるということです。
THYMEはこのミッション・ビジョンのもと、活動をしていきます。
THYMEでこれからしていきたいこと
THYMEは、公的な支援でカバーし切れていない、性暴力被害からの回復(寛解)後のキャリアや生活での課題解決、当事者以外への心理教育、性暴力が起きたときの正しい対応をとれる環境構築などを主な目的として活動をします。
①性暴力によるキャリア断絶を可視化するアンケート調査
②データに基づいた政策提言
③性暴力の問題に関する情報発信(Web記事、ウェビナー、ワークショップなど)
④性教育、心理教育に関わる製品開発
⑤支援や相談の負担軽減を目指したサービスの開発
⑥当事者が支援につながりやすくするための情報掲載
※THYMEでは、心理カウンセリングや相談業務など、被害に遭われた方への直接的な支援・アドバイスは対応できかねます。あくまでサバイバーの一人であり、心理や法的な専門家ではないため、被害に関するご相談は公的な専門機関へ繋いでいただけますようお願いいたします。公的な機関に頼ることは、お互いを守るために大切なことですので、大変恐れ入りますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
THYMEのポリシー
THYMEでは、みなさまからのご支援を受け付けております。
https://thyme.buzz/support/
ご支援をいただくうえで、THYME運営としての考えを知っていただきたいと考えました。以下、運営メンバーの卜田と松本、ほかにもサポートをしてくれているフェミニストのメンバーが共有しているTHYMEとしてのスタンスです。
①性暴力や性差別の問題について考えるとき、属性と個人は分けて考えています
個人が許容できない発言をしたり、自身のスタンスと違う考えを持っているとき、発言や考えを明確に批判することはあっても、その発言や考えに至った背景、その人の属性にかかる差別構造の存在は否定しないというスタンスです。
②差別は個人がカテゴライズされる属性に対し複合的に向けられるものと考えます
一人ひとりがさまざまな属性にカテゴライズされており、それらが相互に関係しあうことによって複合的な差別を経験しえます。
日本でも障害者※3への性暴力、トランスジェンダーへの性暴力、レズビアン、ゲイ、アセクシュアルなどセクシャルマイノリティへの性暴力、同性間で起こる性暴力が軽視され、支援者の間でも適切な対応ができていない状況にあると認識しています。
ジェンダー、セクシュアリティ、人種、民族、経済状況などの「属性」が多層的に重なり、相互に作用しあうことによって起こる差別について、医師や警察などの支援者の間でも知識が共有されていない状況で、重大なセカンドレイプが起こる原因となっています。
③差別は必ずしも悪意ではなく、知らないこと・恐れから生まれると考えています
差別に当たったとき、「単に悪いことだから許さない」のではなく、「知らないことによって、誤った情報に基づいて判断・行動をしていることが問題」と考えます。個人ではなく、その人が当たった情報を批判し、あらゆる差別に反対します。
④性暴力は必ずしも性欲から起こるものではなく、支配欲と結びついた問題と考えています
支配欲を満たさないと、自信を保ったりストレスに対処したりできないことが加害者の問題です。この支配欲を焚き付ける装置が男性中心主義であると考えます。
⑤男性中心主義とは、「”正しい男性”以外を排除する構造」を指しています
男性のホモソーシャル(“弱者を性的支配の対象とみなす価値観”を共有することで、結束を強める男同士のコミュニティ)に基づいた構造です。
男性中心主義社会だからといって、男性すべてが生きやすいわけではありません。
弱い立場を認めない(障害や貧困の排除)、男性を性的対象として「まなざす」ことを認めない(同性愛者の排除)、支配対象としての女性観を共有することでコミュニティを保つ(ミソジニーに基づく結束)構造です。
そのため、そのような女性観を共有しようとしない男性や男性を受け入れない女性(女性同性愛者)も、男性中心主義から排除されます。男性中心主義は男性にとっても生きづらい構造であると考えます。
上記について、私たちとは考えが異なる方もいらっしゃると思います。でも、「考えが同じであればそれでいい」「無理矢理同じ考えにするべき」とは思っていません。性暴力、性差別を許さない社会を作っていくうえで、みなさんに考えてもらいたい論点や大切だと考えていることについて挙げました。
今までも今後も、THYMEの活動や発信を上記の共通認識に基づいて行っていくので、ご支援をいただくにあたり、私たちの考えを知っていただけたらと思いました。必ずしもすべて同じである必要はありませんが、方針や性差別、性暴力への共通認識という大切なことですので、ご確認、ご理解のうえご支援をいただけましたら幸いです。
団体情報
名称:一般社団法人THYME(タイム)
代表理事:勝間田淳
設立日:2023年6月5日